禁欲の効用

●朝起きると熱は36.5度まで下がっていて、普通に出社。だけど勤務中にどんどん具合が悪くなり、熱を測ってみると37.5度になっていたので、午後3時に早退してしまった。職場の人たちからは病院に行けと強く言われたけれど、ぼくは、風邪なんてほっとけば自然に治るもので、わざわざ病院に金を払うのは馬鹿らしいと思っているので、高校を卒業してからというもの、内科の病院に行ったことがない。結局今日も、まっすぐ家に帰って布団にもぐり込むと、本棚から引っぱり出してきた、野口晴哉『風邪の効用』をつらつらと読んでいた。

だから、体を使っている中に、或る一部分が偏り疲労の潜在状態になって、そういう部分の弾力性が欠けてくると風邪を引き、風邪を引いた後、恢復してくる。それで私は風邪は病気というよりも、風邪自体が治療行為ではなかろうかと考えている。ただ風邪を完全に経過しないで治してしまうことばかり考えるから、普段の体が弱い処をそのまま残して又次へ行き、又風邪を引く。

●それから、ネットで注文していたMP3プレーヤーが届いた。ポータブルの音楽プレーヤーを買うのはこれが2度目になる。初めて買ったのはカセットウォークマンで、これは2年で壊れてしまった。それより少し前に、ミニコンポのカセットデッキが故障してダビングができなくなっていたので、その後ウォークマンを買いなおすこともなく、以来、CDをダビングする機器も、ポータブルプレーヤーも持っていなかったのだけど、昨年暮れにパソコンを買い換えたのを機にMP3プレーヤーを買ってみようと思ったのだった。
●買い換える前のパソコンは、Windows 95 が出たての頃に買ったもので、8年ほど使ったことになる。テレビや電子レンジなどの家電製品も、ほとんどが8年前に一人暮らしを始めたころ買ったものを未だに使い続けていて、冷蔵庫なんて夏になると温度が十分に下がらなくて、中に入れた牛乳が2日で腐ってしまうのだけど、盛夏の一時期だけ我慢すればすむので、やはりそのまま使っている。
カセットデッキが壊れたままのミニコンポは、CDプレーヤーとして未だに現役で、LPプレーヤーやビデオデッキの音声も、そのミニコンポのスピーカから出力しているのだけど、こいつはぼくが中学生のときに買ったものだ。
●ぼくも新製品を見て、欲しくなることはたびたびあって、モノに対するフェティシズムもそれなりにあるつもりだけれど、それよりもぼくには禁欲的態度のほうがいっそう馴染み深いものだったりする。それに想像力というのは禁欲的生活の中で育まれるとぼくは思っているのだけど、それでも病院には行っとくべきだろうか。